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日本語しか読めないあなた(と私)が、現代哲学に分け入り英語論文を読む方法

現代哲学(contemporary philosophy)は、分析哲学に限らず、ニーチェ研究であれ、他の哲学者研究であれ、英語を用いて行われる。英語が実質的なリングア・フランカ(lingua franca)となっているのだ*1。これは記述的事実である。この状態は英語帝国主義的であり正義に反する事態であるかもしれないが*2、記述的事実としてそうなっているのである。したがって現代哲学を行うには、英語文献を読むしかない。日本の研究者が日本語に訳してくださった文献を読んでいるだけでは、二次的文献に当たることもできない。しかし英語文献であれば、このような情報を簡単に手に入れることができる。たとえば、「ウィトゲンシュタインクワインが翻訳不確定性について、どう違った考えを持っていたのか」を知りたいとなった場合、英語文献であればすぐに調べることができる。Googleで「Quine and Wittgenstein on the Indeterminancy of Translation」などというワードで検索すれば、以下の文献が即座に表示される。

Lugg, A. (2023). Quine and Wittgenstein on the Indeterminacy of Translation. In S. Morris (Ed.), The Philosophical Project of Carnap and Quine (pp. 177–193). chapter, Cambridge: Cambridge University Press.

この文献を読めば、そもそも (1) 「ウィトゲンシュタインクワインが翻訳不確定性について、どう違った考えを持っていたのか」という問いは、既に誰かが取り組んでおり、 (2) かつこの問いには、査読付きの答えが一つは存在している、ということが分かる。図書館に行って、日本語文献を目を皿のようにして調べなければ分からなかったことが、低いコストで一応は分かるようになっているのだ。

英語文献を読むことが、哲学をするための(ほぼ)必要条件である。

著作権の問題著作権上の問題として、書籍に収載されている文献は読めないことが多いが、そうでない場合には、PhilArchiveや査読以前のプレプリントサーバであれば An Archive for Preprints in Philosophy of Science - PhilSci-Archive (科学の哲学が中心)がある。書籍に収載されている文献でも、大学に所属しているのであればProQuestから書籍購入申し込みをすればよいだろう。さらには、野良で書籍のPDFが落ちている場合もある(私は法的実証主義者なので、法と道徳は分離しているものと割り切る。読みたい本の90%くらいはある)。また書籍の場合でも、Cambridge ElementのSocial Ontologyのように、オープンアクセス(本書の場合は、CC-BY-NC 4.0)で提供されている場合がある。Cambridge Elementsシリーズの書籍はサーベイ論文として非常に有用なので(日本の新書よりはるかに)、ぜひ読むべきである。

翻訳。翻訳については、機械翻訳の進展が目覚ましいため、プロの翻訳とまではいかなくても、90%くらいは理解できるほどの翻訳精度にはなっていると思われる。たとえば、GPT 5.2 や Gemini 4 といった言語モデルである。この記事 AIツールをガンガン使って研究する(2025年版) - 実践的倫理学 にあるように、API経由の翻訳アプリを自作で作るべきか、Readableのような既成のSaaSを使うべきであるのかについては、私は規範的信念を持たない。私は稼いでいたころに課金してしまったため、現状はReadableのプレミアムプラン(月5,000円)を使っている*3が、どちらでも良いと思う。究極的にはChromeブラウザの翻訳か、NotebookLMでも良いだろう。

三種の神器。哲学をするための三種の神器は、「Philpapers」・「Stanford Encyclopedia of Philosophy」・「Internet Encyclopedia of Philosophy」の3つである。これにはみんな同意をしてくれると思う。決して 概念と歴史がわかる 西洋哲学小事典 (ちくま学芸文庫 ン 6-1) ではない(良い本だとは思うが)。

philpapers.org

Philpapersは、意識や脳の哲学で著名なDavid Chalmersがその管理に参画している哲学文献のポータルサイトで、文字通り哲学の「最先端」が今どこにあるのかを知ることができる*4。特に研究者にとって重要であるのが、カテゴリー機能である。たとえば、Large Language Models - Bibliography - PhilPapers では、「Large Language Models(大規模言語モデル)」にタグ付けられた論文が一覧で表示される。大規模言語モデルに関する哲学上の議論が、いまどこまで進んでいるのかを確認することができるのである。その他にも、文献情報をAPAスタイルやBiBTeX形式でコピー・アンド・ペーストすることができたり、おそらくはAPI経由で色々することができたりと、有用なツールである。

plato.stanford.edu

iep.utm.edu

いわずもがなの哲学のオンライン百科事典であるが、ここにある情報は既知であることが我々にとって要求されている気がするので、確認しておくべきである。特に、このサイトに自分の研究したいトピックがエントリーとしてある場合には、その裏に膨大な文献が用意されていることを覚悟すべきだ。

plato.stanford.edu

たとえばここに「SNSと倫理」というエントリーがあるが、そのエントリーが存在するということは、既にこのトピックを狙っている人たちが潜在しているということである。

Coda

英語文献における固有名詞を調べ、英語文献を読み、というサイクルを永遠に繰り返していると、いずれ段々と現代哲学が何をしているのかが分かるようになってくる。自分もそうだった。大切なのは、自分が思い浮かべている疑問を、哲学的用語にして固め、それを検索結果にヒットさせるようにする能力を涵養することだと思う。なぜ哲学が今もまた存続しているのかといえば、人々が同じように思い浮かべる(「正しいとはなにか」、「決定論的世界でも自由意志はあるのか」といった)疑問を、共通の語彙のもとに流し固めて、議論可能にすることができるプラットフォームを提供しているからだろう。そのプラットフォームに乗るためにも、英語という言語に乗らないと話は(残念ながら)始まらないのだ。

*1:特に分析哲学において英語で論文が出版されるべきであるとする主張として Rodriguez-Pereyra, Gonzalo (2013). The Language of Publication of "Analytic" Philosophy. Critica 45 (133):83-90. を参照

*2:自分はここらの言語的正義に関する議論を知らない

*3:月1,000円のプロプランだと、Readable内製のポンコツ言語モデルしか使わせてもらえない。しかしReadableは、(2ページの)対訳で出してくれて、原書の語をすぐに確認できるところが良いと思う。

*4:哲学も研究の一部である以上、業界全体でどこまで言うことが言えているのかを確認しなければ論文にならない。したがって、業界の「最先端」を確認することは研究を行う上で真っ先に確認されるべきことなのだ。

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